テキストサイズ

変人を好きになりました

第22章 犯人探し

「日向さん、顔がにやけているよ」
「すみません」

 社長がパソコンに向かい合う私の顔を覗き込んでいた。
 昨日のあの後、黒滝さんは宿谷さんの家から出て行こうと言ったけれど、秘書として私が役に立つ限り続けて働きたいからと言い張るとあっさり折れてくれた。
 それに、一緒に家に帰ろうと言うんだろうと予想していたけれど、黒滝さんはそんなことは一言も言わなかった。家に戻ってほしくないみたいな感じがした。しかも、記憶が戻ったことは空良くんには言うなとも言われた。

 ますます意味が分からない。
 どうも空良くんを警戒しているようだけど、そんなことをする意図が全く見当もつかない。
 思い返せば、空良くんが一番辛い思いをしているのかもしれない。なんてひどいことをしていたのだろうと思う。

 この1年半の間に、私たちは色んな人の気持ちを引っ掻き回して傷つけていた。でも、どれも仕方のないことのように思える。皆それぞれが自分の気持ちに正直に行動していたことに違いはない。
 里香さんは好意を寄せる黒滝さんになんとしてでも近づこうとして、空良くんも何故かこんな私を好きになってくれて私が寂しい時に支えてくれた。
 黒滝さんが私を庇うために里香さんと結婚したことだってそうだ。

 私だけが、何も考えずに勝手にひねくれてしまっていた。黒滝さんが里香さんを選んだと思って、空良くんの所へ甘えるなんて最低にも程がある。
 私は右手でぺしっと自分の頬を叩いた。
 でも、今はもう違う。


「日向さーん。お昼行きましょう」
 書類をまとめ終えると、胸に社員証をかけた青山さんに声をかけられた。ここの人たちはみんな本当にフレンドリーだ。
「はい!」
 毎日のようにいろんな人たちと仲良くなって、楽しい。
 本当に楽しい。

「日向さん本当にすごいよね。何か国語喋れるんだっけ? それなのに、大学途中までしか行けなかったなんてもったいないー。前までは図書館で働いてたのって本当?」

 マシンガンのように浴びせかけられる質問はどれも無邪気で私が気にしていたことなんて屁でもないように言ってのけられるから、こっちもそんなに深く考えなくていいんだと気が楽になる。
「はい。近所の図書館で。すごく古い図書館なんですけど、雰囲気が大好きで」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ