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変人を好きになりました

第23章 共犯者の正体

「いつまで寝ぼけてんの。言っとくけど、私はあんたのこと友達だなんて思ったことないから」
 聞いたことのないような嘲笑いを含んだ声。
 それが親友から発せられているものとは思えずに私は頭を振った。
 頭を振るとその瞬間何も考えないでいられるから、何度も何度も続けて振る。

 そうしていると気分が悪くなって立っていられなくなった。涙が伝ってブラウスの胸元の色が変わる。
 うそ。嘘にきまってる……由佳が、由佳だけが私の頼りだった。お父さんがいなくなってからは由佳しかいなかった。
 由佳がいたから、今の私はあるのに……。
 ねえ。嘘って言って。お願い。

 そう思うのに喉に涙と鼻水がたまって声が出ない。
「古都さん、落ち着いて」
 黒滝さんの声がする。身体を包み込まれてもう首をふることもできなくなった。
 黒滝さんは私の動きを封じるように抱きかかえると、階段をのぼっていく。

 由佳が見えなくなる。
 どんな顔をしてるの?
 眼鏡のおかげで視界はぼやけないのに、こんなときに限って私の両目はしっかりと涙を流して視界を遮っている。
 気が付くと図書館の外に出ていた。
 宿谷さんが驚いた様子で車から降りてくる。

「柊一くん、これはどういうことだい」
「蒼さん。僕も古都さんと一緒に蒼さんのマンションへ連れて行ってくれませんか? 古都さんを落ち着かせたい。それに元の家には当分戻らないほうがいい。当分というか、できれば永遠に」
 言いかけた黒滝さんの腕をきつく掴んだ。
「いやです。私……由佳のこと。由佳、さっき変だったの。もう一度話を」
 そう言うと止められる前に私は駈け出していた。頭ががんがんするけれど、気にしている暇はない。
 図書館に駆け込んで地下へ降りる。
 図書館の利用者も先輩たちも目を丸くしている。

「ゆ……っ」
 目に入ってきた由佳の後ろ姿に呼びかけようとしてやめた。
 空良くんがすごく真剣な表情で由佳と話していた。尋常じゃない空気に耳を澄ませる。


「あんなこと言ったほうが古都は傷つくよ」
「……じゃあ、何て言えばよかったんです?」

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