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変人を好きになりました

第24章 それぞれの

「ねえ、柊一。まだ寝ないの?」

 いい加減もう寝ないと明日も朝から研究所に行くと言っていたのに。
 この所柊一は睡眠時間を極端に削っているみたいだ。何をしているのかはだいたい察しがつく。
 少なくとももう辞書をひいたりはしていない。

「もうすぐ寝る。空良はもう寝ろ」
 なんだその言い方は。俺はお前の弟でもないんだぞ。と心の中で呟く。
 それでも、柊一のその言葉づかいも俺に対する態度だって嫌じゃない。少し、嬉しい。

「んー。分かったよ。おやすみ」
「おやすみ」
「あっ、そうだ。古都にメールしてから寝ようっと」
 なんだか急に意地悪な気持ちになった俺はそう付け加えて二階に上がる。階段に足をかけると鋭い視線を感じた。
 見ればさっきまでダイニングテーブルで分厚い本と変な色の液体とにらめっこしていた柊一が俺のほうを物凄い形相で睨んでいた。
 目鼻立ちが恐ろしく整った柊一が顔をしかめるとその凄みには圧倒される。

「なんだよ。メールくらいいいだろ。そもそもお前、まだ古都とちゃんと付き合ったわけじゃないんだろ。なのに彼氏面なんてしてると重いって嫌われるぞ」
 思いっきり舌を出して見せると、一気に階段を駆け上がった。

 重いという言葉に目を瞬かせる柊一はまた後でせっせと10数種類の辞書で『重い』の項を引くことだろう。
 まったく、頭がいいのやら悪いのやら。
 自分の部屋に戻るとパタンと音を立ててドアを閉めた。すぐそこには古都の部屋がある。とはいっても空だけど、あるのとないのとでは随分心持ちが違う。
 そのうち帰ると言っておきながら古都は会社での仕事が面白いらしく一向に帰ってくる気配はない。
 せっかく柊一の気持ちも分かったっていうのに、どうして仕事をとるのか俺にはいまいち理解ができなかった。

 柊一も古都が戻ってこないことを嘆いているらしく、きちんと告白ができないのもそのせいだろう。
 柊一が最近宿谷蒼さんを警戒しているのも知っている。柊一はいつもは冷静なのに古都さんに関わることとなると冷静さを保とうとすることすら忘れるらしくすぐに顔に出る。

 あんな見た目をしているから恋愛経験は少なくないと思っていたけれど、俺の勘が当たっているなら柊一は今まで一度も誰とも本当の意味で付き合ったことはないと思う。

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