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変人を好きになりました

第24章 それぞれの

 彼女がいたことがあるのなら、『デート入門書』とか『成功する告白!』なんて本を買ってこないだろう。いや、彼女がいる男でもそんな本を読んだことがある奴は少ない。

 変に真面目で追求しだしたらきりがない性格が科学者としての役に立っていることに違いはないが、恋愛にまでそれが及ぶとなるとはっきりいってえげつない。
 ていうか、高校生の時の初恋をずっと今まで続けていたなんて純粋にすごいと思う。

「なんか面白くねーなー」
 独り言を言いながら机の上に置いてある地球儀を手に取る。くるりと回し、日本を指でこつこつと叩く。それからイギリスまで指を添わした。そこから日本にもう一度戻ってきた。

 そうだな。まだ行ったことのない場所はたくさんある。死ぬまでに一体どれくらいの国に行けるのだろう。
 空は繋がっていたって違う場所からみるそれはやっぱりそれぞれ違う。

 できることなら地球上のどの地域からの空も目に焼き付けたいと小さい頃から考えていた。その時に隣りに古都がいればどんなに幸せだろうな。
 柊一の目を盗むことができるなら古都を連れ出そう。誘拐だと言われてもいい。古都と一緒に空を見たい。
 地球儀を机の上に戻すと部屋の電気を消した。
 天井にプラネタリウムの星が映る。
 結構、正確に作られているものでその星を眺めていると心が落ち着いた。
 ベッドには入らずフローリングの床に大の字に寝っころがる。

 ふと思いついて締め切っていたカーテンを開けた。窓も開けて頭を外へだし、空を見上げる。

「あー。全然見えない」
 この大都会では満点の星空はおろか数粒の星すら見えることは稀だ。今夜も例外じゃない。
 それでも月はよく見える。

 ネメアの森で3日間首を絞められたライオンの神話がある。あの有名な英雄、ヘラクレスによって退治された大きなライオンはのちの獅子座だ。
 神様がライオンの強さをたたえて星座にしたとかなんとか。
 俺の星座はライオンなんだよな。

 それがあんな変人科学者に負けてどうする。
 へへっと軽い笑い声を出すと、携帯には目もくれずもう一度床に仰向けに寝た。初夏はまだ蒸し暑くなくって窓を開けっ放しにしてちょうどいい気温だ。

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