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変人を好きになりました

第6章 行き交う想い

 こんなこと聞くはずじゃなかったのに。
 余計惨めになるだけなのに……。
 呆れられるに決まってる。

「それは、古都さんを……」

 返ってきた意外な言葉とぬくもりを感じた。
 黒滝さんに真正面から抱きしめられていた。

「やめてっ!」
 少し前にされたら嬉しかっただろうに、今は身体が拒否反応を起こす。
「古都さん……頼む」
 悲しい声で呟きながら抵抗する私の腕を掴む。

「離してっ! 汚いっ」
「……っ」
 思わず口から出た言葉に黒滝さんの動きが一瞬止まる。
 今の内だと思い、黒滝さんから逃げようとするが力強く腕を握りしめられた。
「あの人に触れた手で私に触れないでっ」
 もうどうにでもなれと、嫉妬心も羞恥心もむき出しにして暴れる私を黒滝さんは黙って押さえつけようとする。
「きゃっ」
 力余ったのか黒滝さんが私を床に押し倒した。

「落ち着いて。僕の話を聞いて」
「いや……です」
 見上げる黒滝さんは真剣な顔をしていた。こんなに綺麗な人に愛されるなんて里香さんが羨ましいと思って、不覚にも胸が痛んだ。

「古都さんっ!」
 空良さんの声がして私の手首を押さえつける黒滝さんの力が緩んで、私は黒滝さんの下から抜け出した。

「古都さん、大丈夫!? 柊一、お前……」
 空良さんがふらつく私を抱きしめる。今にも崩れ落ちそうだった私は空良さんの優しさに甘えてしまう。
「……古都さん、乱暴をしたのは悪かった。でも、聞いてほしいんだ」
 空良さんの胸に顔をうずめたまま私は返事をしようともせずに首を振った。
「こんなに泣かせるなんてお前、最低だな。これ以上古都さんを傷つけたら許さない。早く出て行ってくれ」
「君にそんなことを言われる筋合いはない」

「分かったよ。古都さん、俺の部屋に行こう」
「そんなことさせない」

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