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変人を好きになりました

第6章 行き交う想い

「お前こそ、今古都さんに何してたんだ。涼しい顔してよくあんなことできたな」
 言い合う黒滝さんと空良さんの声が交互に聞こえる。
 空良さんのカーディガンが濡れていて、自分が泣いていることに気が付いた。
「空良さん、私、大丈夫だから……。お風呂入ってくる」
 顔を上げると、私より少し高い位置にある空良さんの瞳はぐらぐらと揺れながら私を見ていた。
 どうしてこんなに心配してくれるのだろう。
「うん。わかった」
「古都さん、すまない。でも」
 黒滝さんの短く整えられた髪が少し乱れている。
 私が暴れたせいか。
 黒滝さんが薄い唇を開いて続きを喋ろうとして、私も聞こうとした。
 けれど、鳴り響いた冷たい機械音がそれを邪魔した。
「くそ」
 黒滝さんらしくない呟きを吐いて、携帯の画面を見ると息を大きく吸いながら首を横に振って諦めたような悲しいような変な笑顔をして見せた。
「何か用か」
 静かな部屋で黒滝さんの声も電話の向こうの相手の甲高い声も少しは聞こえてしまう。
 里香さんだ……。
 耳につく声を聞くだけで鳥肌が立った。
 黒滝さんは一言二言話してから、携帯をポケットにしまった。

「いってくる」

「はあ?」
 唖然とする空良さんは今にも掴みにかかりそうな勢いで黒滝さんに迫った。

「いってらっしゃい」

「古都さん」
 私は涙を袖で拭いて、黒滝さんに言った。
 すごく恐いしかめっ面をしてから黒滝さんは無言で出て行った。
 本当に私は何してるんだろう。

「柊一、帰ってこないね」
「別にいいじゃないですか。それより、空良くんすごいね。どこの雑誌も絶賛してるよ」
 黒滝さんが帰ってこなくなって1週間。
 こんなに長い期間黒滝さんを見ないのは初めてのことだったが、あんなことがあったから仕方がないと思っていた。

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