
変人を好きになりました
第7章 古城のシンデレラ
そんな不躾な使用人が城にいるとは考えられず驚いて扉の方を見た私は目を疑った。
どうして、こんな所に……。
「古都さん!」
その人は着慣れないスーツに身を包んだ綺麗な顔立ちをした本当におとぎ話に出てきそうな王子様だった。
「黒滝……さん?」
いつも汚れた白衣を着て神経質そうな手つきで試験管を振ったり、顕微鏡を覗く姿と違いすぎていて彼であることを疑わずにはいられない。
それに、彼らしくなくすごく急いだように息が荒い。それに、顔なんていまにも泣き出しそうなくらい歪んでいる。
「行かないでほしい」
そう唐突に放たれた言葉。
私は意味が分からなくて口が動かない。
黒滝さんは一歩一歩確かめるように私の方へ近づいてきたかと思うと、もの凄い力でベッドの傍に立つ私の身体を抱きしめた。
そして今度は震える声ではっきりとゆっくりと囁かれた。
「行くな」
こんなに近くで黒滝さんを感じたのは初めてで、彼の胸に顔を押し付けられているからすごく黒滝さんの香りがする。香水なんかじゃない、このにおい。こんな心地の良い香りが存在するなんて知らなかった。
「どこへ」
「どこにも……」
「……は」
思わず『はい』と答えそうになってしまった。
いや、そう答えようとしていた。
一寸の迷いも見出すことができず、黒滝さんの広い胸板とぬくもりと心地の良い香りに包まれて、今までの黒滝さんの態度だって思い出すことができないくらい頭が麻痺して、口が勝手に動いた。
それなのに、私の小さな勇気は突然入ってきた人物によって打ち砕かれた。
「柊一さん、だめじゃない。人の婚約者にそんな長いハグ」
里香さん……。
「タイミング最高だね」
空良さんが乾いた笑い声を上げた。
「あら、そう? ありがとう。柊一さんったら急にイギリスに行くからびっくりしちゃった。お父様のジェット機の用意がすぐできて良かったわ」
「里香……」
黒滝さんは里香さんの声ですぐに私から離れた。顔色が悪い気がする。
どうして、こんな所に……。
「古都さん!」
その人は着慣れないスーツに身を包んだ綺麗な顔立ちをした本当におとぎ話に出てきそうな王子様だった。
「黒滝……さん?」
いつも汚れた白衣を着て神経質そうな手つきで試験管を振ったり、顕微鏡を覗く姿と違いすぎていて彼であることを疑わずにはいられない。
それに、彼らしくなくすごく急いだように息が荒い。それに、顔なんていまにも泣き出しそうなくらい歪んでいる。
「行かないでほしい」
そう唐突に放たれた言葉。
私は意味が分からなくて口が動かない。
黒滝さんは一歩一歩確かめるように私の方へ近づいてきたかと思うと、もの凄い力でベッドの傍に立つ私の身体を抱きしめた。
そして今度は震える声ではっきりとゆっくりと囁かれた。
「行くな」
こんなに近くで黒滝さんを感じたのは初めてで、彼の胸に顔を押し付けられているからすごく黒滝さんの香りがする。香水なんかじゃない、このにおい。こんな心地の良い香りが存在するなんて知らなかった。
「どこへ」
「どこにも……」
「……は」
思わず『はい』と答えそうになってしまった。
いや、そう答えようとしていた。
一寸の迷いも見出すことができず、黒滝さんの広い胸板とぬくもりと心地の良い香りに包まれて、今までの黒滝さんの態度だって思い出すことができないくらい頭が麻痺して、口が勝手に動いた。
それなのに、私の小さな勇気は突然入ってきた人物によって打ち砕かれた。
「柊一さん、だめじゃない。人の婚約者にそんな長いハグ」
里香さん……。
「タイミング最高だね」
空良さんが乾いた笑い声を上げた。
「あら、そう? ありがとう。柊一さんったら急にイギリスに行くからびっくりしちゃった。お父様のジェット機の用意がすぐできて良かったわ」
「里香……」
黒滝さんは里香さんの声ですぐに私から離れた。顔色が悪い気がする。
