
変人を好きになりました
第7章 古城のシンデレラ
「なんで……よ」
誰に向けて言った言葉だろう。
結婚することが決まったのに私を抱きしめて意味深なことを言った黒滝さん?
部屋を出ていくまでまともな言葉を発せなかった自分?
たぶん両者だ。
どうして、私は大切な時になにも言えないのだろう。
「これは予想外」
空良くんの呟く声が聞こえた。
「空良くん、どうして婚約は理由があったんだって言わなかったの?」
空良くんはまた窓の外を見ている。
黒滝さんたちが出ていくのを見ているのだろう。そういえばさっきもずっと外を見ていたのは黒滝さんが来る様子を見ていたのだろう。
「どうしてか、分からない?」
真っ黒な笑顔の横顔の空良くんはいつもの明るくて可愛い空良くんじゃないみたい。
「どういうこと?」
空良くんが部屋の真ん中に突っ立っている私に近付いて、私の顎を掴んだ。
「古都を奪うチャンス。どうして無駄にしろって言うの?」
茶色の大きな瞳に私の戸惑う顔が映る。
上を向かされて、じょじょに近づいてくる空良くんの顔を見ていると、その可愛い顔を見るのに耐えれなくなって瞼が下がった。
「それってキスしていいって合図だよね」
その言葉に急いで空良くんの手から逃げる。
「古都は本当に馬鹿だなあ。良い意味でね。おいで。もう、何もしないよ」
そういいながら微笑む空良くんはいつもの空良くんだ。
「おいでって。古都の心が俺のものになるまでは手を出さないって決めたんだ」
