
変人を好きになりました
第8章 元ストーカー
「古都」
差し出された手をとることは簡単で、手を少し伸ばせばもう苦しまなくてもいいのかもなんて考えが頭をよぎった。
男性にしては小さめのその手の平に私の美しいとは言い難い手を伸ばす。
自分の指の爪が視界の端に映った。
ネイルなんてちっとも気にしてなくて、適当に切りそろえられたその爪の表面はトップコートを塗られることもなく、ただひたすらに地味に納まっていた。
里香さんの真っ赤な薔薇のネイルと大違い。
悲しくなって手をひっこめた。
「まだ俺じゃ、だめだよね」
悲しそうに笑う空良くん。
空良くんに問題があるんじゃない。
そう思うけれど、口にすることができない、口にすることすら失礼に思えて目を伏せる。
「まあ、まだまだチャンスはあるからめげないけどね。さ、古城探索の続きしようか」
私は黒滝さんにも里香さんにも、空良くんにだって流されるまま。
まるで自分には何も選ぶ権利がないみたいで、動く人たちの波に巻き込まれることで生きている。
私にだって意思はあるし、感情だってちゃんとある。
けれど、それを周りにどうしても伝えきれない。
周りを動かすだけのパワーもエネルギーも持ち合わせていない。空良くんみたいに明るく元気になれない。里香さんみたいに華やかに積極的になれない。
黒滝さんみたいに研究に没頭することもない。
ここまで考えて、私は納得していた。
黒滝さんがこんな私を選ぶはずなんてなかったのだと。
「うん。私、広間にあったステンドグラスよく見てみたい」
そして、これからも私はこの私と付き合っていくしかない。
周りに流されるだけの、惨めで、悲しい私と。
差し出された手をとることは簡単で、手を少し伸ばせばもう苦しまなくてもいいのかもなんて考えが頭をよぎった。
男性にしては小さめのその手の平に私の美しいとは言い難い手を伸ばす。
自分の指の爪が視界の端に映った。
ネイルなんてちっとも気にしてなくて、適当に切りそろえられたその爪の表面はトップコートを塗られることもなく、ただひたすらに地味に納まっていた。
里香さんの真っ赤な薔薇のネイルと大違い。
悲しくなって手をひっこめた。
「まだ俺じゃ、だめだよね」
悲しそうに笑う空良くん。
空良くんに問題があるんじゃない。
そう思うけれど、口にすることができない、口にすることすら失礼に思えて目を伏せる。
「まあ、まだまだチャンスはあるからめげないけどね。さ、古城探索の続きしようか」
私は黒滝さんにも里香さんにも、空良くんにだって流されるまま。
まるで自分には何も選ぶ権利がないみたいで、動く人たちの波に巻き込まれることで生きている。
私にだって意思はあるし、感情だってちゃんとある。
けれど、それを周りにどうしても伝えきれない。
周りを動かすだけのパワーもエネルギーも持ち合わせていない。空良くんみたいに明るく元気になれない。里香さんみたいに華やかに積極的になれない。
黒滝さんみたいに研究に没頭することもない。
ここまで考えて、私は納得していた。
黒滝さんがこんな私を選ぶはずなんてなかったのだと。
「うん。私、広間にあったステンドグラスよく見てみたい」
そして、これからも私はこの私と付き合っていくしかない。
周りに流されるだけの、惨めで、悲しい私と。
