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赤い印

第5章 夜の天文部

「今日、よく見えるほうだよ。
やっぱり、火星が一番カッコいいわ…。」
部長がまたあちらの世界へ旅立つ。

「渚、勝手に覗くぞ」
先生は私を膝に乗せたまま
上体だけをひねって観察を始める。

この瞬間だけ、先生の顔が無邪気になる。
いつもの無気力さとは程遠い。

「佐倉も見る?」
その顔のまま私に振る。
「いいえ。火星のうんちくは
 春休みにたっぷり聞かされて
 もうお腹いっぱいです。」
「ははっ」

またクシャリと私の頭を撫でる。

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