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あたしは被害者

第9章 どっちもぶっ壊す



「あたしが洗うよ!」

皿洗いを始めるママの横から
割り込む。


「あ、ほんとー?」

「うん、ママお風呂入って
来ちゃいなよ~」


ママは今
きっと笑っている。


「うん、じゃあそうしようかな!
ありがとね!」


タオルで手を拭くと
自室へと姿を消した。


あたしはただ黙々と
手だけを動かし続ける。


あたしはママの
笑った顔が嫌いだ。


……なんか、いや。


そもそも人の笑った顔が嫌い。


なにも感じないで
恐怖も不安も忘れて

ただ思うままに笑う。


そんな幸せな時。

それが嫌い。

ぶち壊したくなる。


笑ってるやつ見ると
いきなり『しね』っていって
引きつった顔にしたくなる。

自分で笑わせたくせに
笑った相手の腹蹴り飛ばして
『消えろ』って言いたくなる。


なに笑ってんの?
なにが楽しいの?
頭大丈夫?

って
言いたくなる。


幸せなんていらない。
笑顔なんていらない。


あたしはわらってるけど
『笑顔』じゃない。


ただ目を細め、
口角を上げているだけの表情。


俗に言う



『愛想笑い』


女には笑顔
男には涙
大人には真剣な顔を見せとけば
すべて思い通りになる。

なるようになる。


計画が進むの。



『カタン』



二人分の食器なんて
すぐに洗い終わる。

ママが着替えを部屋から
持って出てくるわずかな時間でも。


あたしはママが出てくる前に
自分の部屋に急いだ。

なぜかムシャクシャした。


ひさびさに

『怒り』がこみ上げてくる。

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