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仮面な人たちの恋愛夢小説

第4章 心とココロ(剣)

自分を見ながら微笑む凛が始は怖くなった。
俺は彼女といてはいけない。そんな感情が始に巡った。
始の中で、もう一人の自分が唸りを上げそうになった。

『取り敢えず今日はゆっくり休んで下さい。お邪魔はしませんから』

「いや、此処にいていい‥むしろ居てくれ」

自分から出た言葉に少し驚く始。
始はまた明後日の方向を向く。
凛はただ、はい、と頷いた。
凛が始を呼ぶと始の横顔が見え、次の瞬間始は目を見開く。
そして、鼓動がいつもより早く波打つのが分かる。

『…大好き』

華奢な彼女が始の背中に手を回し抱き着いている。
凛が始の胸板に顔を寄せて、腕にこもる力が強くなるのを始は背中で感じた。
呟くように口にした彼女の言葉が、始の中でリフレインする。
始はそっと彼女の背中に手を回しただ無心で抱き締める。
やがて凛の鼓動が早くなり彼女はたた始に身体を預けていた。
「少し、このままいさせてほしい」

『私も、私ももう少しこのまま…』

───
翌日、凛の隣のベッドが空だった。凛は慌てて飛び起き、ベッドを見る。
枕元に手紙があった。
中身はこうだった。

“このまま君といたら、きっといつか俺は君を危険な目に会わせてしまう。だからもう会えない。君たち家族に触れることが出来て良かった。さようなら”

凛は慌てて外に出る。
凛は宛もなく走った。ただ走った。
やがて雲行きが怪しくなり雨が降りだす。
薄暗く冷たい雨が、自然と涙を誘う。
必死で拭う涙が雨と混じり、彼女の心までをも濡らす。
やがては泣く力をも失い、膝から崩れかけた時、誰かに身体を支えられた。
薄れ行く意識の中で凛は顔を上げる。

『始‥さん』

「…いいのか」

頷く凛を見た始が凛に唇を重ねる。
優しく触れる始の手が彼女と重なって抱き締める。
心とココロが求め合うままに二人は暫く、兄が見守る空の下、雨の中を抱き締め合った── 

          心とココロ END

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