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仮面な人たちの恋愛夢小説

第8章 愛想兄妹(K)

月明かりが彼女を照らし、ゆっくりと開かれた漆黒の瞳を写し出すと、彼女の手が矢車に伸びた。
それに気付いた矢車は、伸びてきた彼女の手を握って頬に寄せた。

「見えるか…?」

『はい‥良く、見えます』

「そうか‥」

『想さん…月、観に行きませんか?』

頷いた矢車が彼女を車椅子に乗せ、屋上へと運んだ。
矢車は月を目にすると眩しそうに目を細め、手で目元を覆った。

『綺麗…光…光が見える‥』

「俺には眩しすぎる…この光、相棒にも見せたかった‥」

『兄さんも、見てると思います』

「相棒が…?」

『はい。この空の何処かで』

真っ暗な中に瞬く星々を見上げる彼女。
矢車も同じ様に同じ星空を見上げた。

「暗いのに、綺麗だ」

『星も、小さいけど光なんです。一生懸命輝いてます‥』

「俺には掴めそうにない光だな」

『想さんにも掴める光、私一緒に見つけます』

「いや…、その必要はない」

『え?』

「俺にも触れることのできる光が、ほら‥こんなにも近くに…」

そう言った矢車が手を伸ばした先には彼女があった。

『わ‥た‥し…?』

「そうだ。お前が俺の光だ」

『私が、想さんの‥』

彼女にそっと寄る矢車は、彼女の耳元で囁いた。

「これからはずっと一緒だ。相棒の代わりに‥」

『想さんが、お兄ちゃん…?』

「ああ。今から俺がお前のアニキだ」

寄り添う彼女の傍らで髪を撫でて愛おしそうにしている矢車。
亡き兄・瞬が見守る星空の下、“愛想兄妹”が産まれた──。

         愛想兄妹 END

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