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それで、また会ってる。

第1章 冷たい手



「……ん」

そうこうしてる間に、彼は目を覚ましてしまった。
「あ、俊紀さん。おかえり……」
彼は明るい調子で話しかけてきたが、俺の手にあるナイフを見てすぐさま表情を変えた。
「何で俊紀さんがソレ持って……」
「えっ! いや、君を起こそうと肩揺らしたら落ちてきたんだ! 寝てる間に何かしようとしたわけじゃないから誤解しないでくれよ!」
とにかく焦って、ジェスチャーつきで弁解した。彼は黙って聞いていたけど、堪えきれないといった様子で笑い出した。

「何だよ、何で笑うんだよ」
「ははっ……ごめん、俊紀さんスゲー必死だから、つい」

夕都は起き上がり、床に膝をつく俊紀と向き合うように正座した。

「だって普通だったら追い出すでしょ。誤解を解かなきゃなんないのは俺の方なのに、何で貴方がそんな気ィ遣うかな」
「それは……」
「それに、まだちゃんと謝ってなかった。何も関係ない俊紀さんを巻き込んだりしてすいません。悪気はないんだけどね、ははは」
「……」

正直、そのことに関しては全く怒ってなかった。
けど逆に、軽いノリで告げた感満載の謝罪には少し殺意が湧いた。
「あ、てか俊紀さんってモテるでしょ。イケメンだもん」
加えて、藪から棒に進む彼の会話にはついていけない。
「独身だよね。彼女はいるの?」
「いないよ。……君はどうなの? 俺から言わせりゃ君の方がイケメンに見えるけど」
嫌味な様に聞こえたかもしれないが、これは本音だった。
彼は整った顔立ちで、不思議な雰囲気を出している美少年だからだ。……格好だけで判断すればただのチャラ男だけど。
「いや、彼女いたんだけど俺は最近別れた。そもそもお互いそんな好きじゃなかったみたい」
「全く、そんな遊び感覚で付き合ってどうすんだか」
手に持ったナイフをもてあましながら呟いた。
「ま、夕都くんもいつか本当に好きな人ができるといいな」
「呼び捨てでいいってば。くん付けは嫌なんだ」
「あぁ……別にいいけど。そんなことが何で嫌なんだ?」
「俺の嫌いな人間は皆そうやって呼んでくるから」
夕都は俊紀から視線を外して、拗ねた子どもの様な表情を浮かべた。
「そうか……」
嫌いな人間。クラスメイトとかだろうか。でもそんな呼び方、親しくないにしてもあんまり使わない気がするけどな。




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