それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
「あ。そういえば俊紀さん、それ貸して。危ないから」
夕都はナイフを渡すよう、俊紀に手を差し出した。
……。
俊紀は黙って、持っていたナイフを彼に渡す。
「ちょっ……俊紀さん? 離す気ある?」
しかし、ナイフから手を離すことはしなかった。
「夕都」
彼の質問より先に、どうしても自分の中に燻ってる疑問を解消したくて。
「これだけは絶対答えてほしい。……何の為ににこんなもん持ってる?」
「それは……」
茶化すように笑った夕都だったが、次の言葉が出てこなかった。
俊紀は先程までと打って変わって、悲しそうな眼で見つめてきたからだ。
「護身用。って言ったら……信じてくれる?」
夕都は笑ったつもりだったが、実際はかなり困った表情になってしまっていた。こんな複雑な気持ちになったのはいつぶりだろう。
……嘘じゃないのに嘘をついた気分だ。
「……俊紀さん」
「ん?」
軽く頭を掻いて、自傷気味に夕都は笑った。
「情けないけど、俺って実はかなり臆病なんだ。だからこんなもん持って……これで無理やり気持ち落ち着かせてる感じなんだ」
それは本音だった。こんな事を会って間もない他人に話してる自分が一番信じられないけど。
「今は人が怖い。もちろん使ったりなんかしないけど……怖くて」
夕都の手は、震えている。その事を俊紀だけが気付いていた。
「俺はひとりだから……」
そう言ってうつむいた夕都の頭の上に、俊紀は優しく手を置いた。
「俊紀さん?」
まさかそんな事をされるとは思わなかったので、夕都は驚いて俊紀を見る。
「何があったのかは話してくれないと全然わからない。でも、一人で抱え込む必要なんかない」
夕都を宥める様に言い、加えて頭を撫でた。
「お前を信じるよ。……何にも知らないからこそ、力になれる事もあるだろうし」
そう言って笑う俊紀を見て、思わず夕都も笑みがこぼれた。
誰かに頭を撫でられたのは何年ぶりだろう。
これが人前でやられたら分からないけど、案外悪い気がしない。
それともこの人だから……嬉しく思ったりするんだろうか。
「俊紀さん。……ありがとう」
夕都はかろうじて聞き取れる程の声で、呟いた。