それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
「ふあ、さむ……っ」
仕事が終わり、俊紀は寒さのせいかやや早足で自宅を目指した。
今日はいつもより仕事に集中できなかった理由があって、一日中ソワソワしてた気がする。
その理由は実に単純明快。
やっぱ今ごろマズい気がしてきたんですけどー……!!
何がマズいかと言いますと、昨日から始まった男子高校生との同居のこと。恐ろしい話、今のところ彼について分かってることは名前と住所だけ。
それだって微妙だ。嘘をついてる可能性もあるが確かめる術もない。にもかかわらず、普通に彼に留守を任せて今日は出勤してしまった。
まぁ家で休んでるように言ったのは自分だけど……。
足早だったせいか、気付けばもうマンションの前まで来ていた。彼は家にいるだろうか。もし金目当ての不良だったら、なんて良からぬ妄想まで浮かんでしまう。
だけど、そう思う度に彼の辛そうな表情が脳裏にチラつく。それに後悔するにしたって、彼を家に置いて出てきてるんだからもう遅い。
……昨日の自分が信じてみようと思ったんだ。ここは腹を括るしかない。それに怪我していたのは事実なんだ。
鍵をあけて中に入ると、静まり返って音は全く聞こえなかった。
「……た、ただいまー?」
リビングにひょこっと顔を出すも、荒れた形跡は一切ない。いつも通りの景色だけど、一つだけ明らかに違う、新しい存在がある。
「……夕都くん?」
白いダブルのソファで静かに寝息を立てる少年。
今日一日ずっとソファで寝ていたんだろうか。
でも朝はワイシャツ一枚だったのに、今はしっかりブレザーを着ている。怪我してんのにどこか出掛けてたのか?
とまぁ、とにかく。
「夕都くん、こんな所で寝てたら風邪ひくぞ。寝るならベッドで」
俊紀は彼を軽く揺さぶって起こそうとした。
しかし夕都の内ポケットから、何かが重い音を立てて床へと落ちる。
それが何なのか、理解するのに時間はかからなかった。
……ナイフだ。
一応、拾った。想像していたより重い。
この時点で心拍数はかなり上がっていたが、さらに恐ろしい事に気付いて息を飲む。よく見ると、昨日見たものより確実に一回り大きい。
マジかよ……!
物騒なナイフと少年の穏やかな寝顔を交互に見つめ、俊紀は重たい溜め息をもらした。
やっぱり、友好的になれない一番の原因はここにあるみたいだ。