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それで、また会ってる。

第1章 冷たい手



何秒。いや何十秒、そうして彼を抱いていただろう。
動こうと思えば動けたはずなのに、手は彼から離れてくれなかった。
もちろん、彼も。大人しく俺に抱かれて、まっすぐな瞳で見つめてくる。
何だこれ……。
しかし気まずい空気になっているのは肌でビリビリ感じとれた。
これはいかん。笑って誤魔化そう。
それ以外に良い案が思いつかなくて、夕都の手を引っ張って起こした。

「ははは……ごめんごめん」

この不思議な感覚の原因が何なのか分からない。それでも自分が今混乱している事は確信した。

「なに固まってんだよ。まさかどっか打った?」

戸惑いを悟られないように、俊紀は彼に背を向ける。
混乱の原因は分からないが、不安の原因はわかった。
それは何年もの間隠し通してきた秘密で、誰にも批判されないように守ってきた秘密。それをもしかして───もしかしたら。
「ねぇ。……俊紀さんって」
俊紀が抱いたその不安は、次の夕都の言葉によって的中することとなった。

「実は、男が好きだったりする?」

サラッと夕都の口からこぼれた言葉は、今の俊紀には後ろから頭を殴られるより威力があった。
「何となーく……そんな気がしてたんだけど。違う?」
「何だそりゃ。じゃあ、違うって言ったら信じてくれるか」
動揺を悟られないように、あえて夕都が言った言葉を代用した。すると彼は少し考えてから、可愛いぐらいにっこり笑った。
「あぁ。俊紀さんが俺をもっと信用してくれるなら、俺も俊紀さんを信じるよ」
見せる表情とは違い、声はオクターブ一つ下がってる。でも、それについては即答できた。
「なに言ってんだよ。信用してるから家に泊めてるんだろ」
「あ、そうだね」
夕都は納得したようで、それ以上は何も言わなかった。あまりに単純で若干拍子抜けする。

「とにかく! 俺の方が先にお前を信じたんだから、さっきの話は信じてくれるよな?」
「…………うん」

分かった。……信じてないみたいだ。
少し泣きたくなる。
ずっと隠し通してきた秘密を出会って三日の高校生に知られてしまったことがショックで仕方なかった。




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