それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
「ねぇ、それはそうと……」
夕都は急に真剣な面持ちになり、話を切り出した。
あまり見たことのない彼の真面目な雰囲気に、こっちも思わず緊張してしまう。
何を言い出す気だ……?
彼の事だから、また突拍子もないことを言うかもしれない。そう予想して、大抵のことは動揺しないで答えられるよう俊紀は身構えた。
同性愛の話になっても大丈夫なように。
「……何」
「彼氏が欲しいなら、俺と付き合おうよ」
喉に通りかけていた飲み物が逆流して、咳き込んでしまった。
「何でそうなるんだよ!」
「あれ、俺に気があるんじゃないの?」
こればかりは予想外だった。あと、凄まじい勘違いだ。話が突飛すぎて、どう返せばいいかも分からない。
「いつ誰がそんなこと言ったよ。全く、最近の若者は冗談がキツいんだからな……」
「俊紀さんも若者じゃーん」
ぬれた口元を拭いて、あくまで冷静に切り返した。
「大体、お前はいつも遊びでしか付き合わないんだろ? そんなんじゃ相手が女の子じゃなくて、……男だとしても気の毒だよ」
夕都は首を振って否定した。
「ううん、だからこそ今度は真剣に恋愛してみたいんだ。それに俺、俊紀さんならマジでイケそう」
「俺は無理」
「そっか。でも付き合ってれば同居してても問題無いし」
「無理だって」
「バイトも学校もこっからのが近いしなぁ……よし、決まりだね。付き合おう」
あれ? 日本語が通じない。
呆然としている間に、夕都は一人で話を始めた。
「じゃ今日からよろしく! いやぁ、俺オトコと付き合うの初めてだからワクワクするなぁ」
自分勝手に話を進める夕都に、さすがに我慢も限界を迎えた。
「人の話を聴け!! 俺は絶対無理だし、そもそも一週間って約束だろ!? だから泊まらせてやってんのに!」
「わかってるよ。わかってます。俺も最初はそのつもりだったんだけど、気が変わったんだ。俺けっこう、そう、ガチで俊紀さんのこと好き」
夕都は立ち上がり、俊紀と息が当たりそうな距離まで顔を近づけ、呟いた。
「一週間だけって、それは俺がただの同居人だったらの話でしょ? 俺が俊紀さんの恋人なら話は変わってくるよね」