それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
ありえない。
ありえない事の連続で、どうしたらいいか分からない。
それでも夕都は俊紀の前でにこやかに笑っていた。
「そうだ、もう少し落ち着いたら俊紀さんが俺の家に住むってのもアリだと思う!」
「だから誰もまだ付き合うなんて……んっ!」
一瞬の出来事だった。
まだ話してる最中だというのに、夕都は俊紀の唇を塞ぎ、壁に押し付けた。
会ったばっかりの高校生にキスされてる。俊紀は混乱した。煽ってるのか、わざと激しく口付けを交わし、淫らな音を立ててくる。
「……っ!」
その最中に夕都は腰に手を当て、俊紀のベルトを外そうとしたが、
「痛っ!」
俊紀は寸前で夕都の鳩尾を手加減ゼロで殴り、事なきを得た。夕都は膝をついてうずくまる。自業自得だとは思ったが、俊紀はすぐに屈んで彼を抱き起こした。
「悪い、大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃない……」
夕都は涙目になりながら俊紀に抱き起こされた。
「すまん、全然手加減しなかった」
「いや……手加減ていうか」
夕都はブレザーをめくると、殴られただろう部分を押さえて呟いた。
「傷口をピンポイントで殴ってきたからツラいんだけど……」
そう言われてハッとした。
彼が刃物で刺された傷口はようやく塞がりかけてきていたのに、どうやらそこを殴ってしまったようだ。
「すまん、すっかり忘れてた……! あまり痛かったら病院行くか?」
予想外の展開にさっきから完全に混乱している。
けど夕都は少し深呼吸をして、優しく笑いかけた。
「大丈夫だよ。でもできたら立たしてくんないかな」
「あ、あぁ」
俊紀は言う通りに、夕都の手を引いて起こそうとした。
「んっ!」
ところがお互いの顔が近くなった際、またしても夕都はキスをしてきた。
もうマジで、ほんとに懲りない。
怒りが頂点に達し、俊紀は夕都を殴った。もちろん今度は腹部ではなく頭部を。
「俊紀さん。痛い」
「あぁ。さっきの痛がりようは演技か?」
冗談抜きで尋ねると、ようやく夕都は申し訳なさそうに俯いた。
「痛かったのは本当です……」
そのあとはしばらく、彼の謝罪を聞いたけど。
夕都は思っていたよりずっと危険で、変態で、扱いづらい人間だということを知った日になった。