それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
「よおぉぉしじゃあこうしよう! 俺がちゃんと学校行った日は、俊紀さん家に泊まっていいっていうルール。それなら俺も頑張って行ける気がする!」
「…………」
夕都の提案は、また悪い意味で裏切ってくれた。どうしてこうも上手にこちらの理想を裏切ってくれるのか不思議でしょうがない。もはや尊敬の域に達している。
「ね、同居すれば俺も学校行けるしもっと俊紀さんのこと知れるし、一石二鳥でしょ」
あぁ。お前だけな。
「よし、今日はバイト休も。誰か代わってくれるよう電話」
夕都は電話をかけようとしたけど、慌ててそれを取り上げる。このタイミングを逃したらまずい。
「ちょっと待った。学校に行くのはいいけど、俺ん家に泊まっていいかどうかってのは俺が決めることだろ?」
「うん」
「とても俺の意見を尊重してくれる様には見えないけど……」
ペースを狂わされっぱなしで、いつしかこっちの方が疲れていた。口論ではあまり意味がないし、何より朝から揉めるのは疲れる。
「心配しないで。俊紀さんの気持ちは分かるよ。俺と付き合うには、知らない事が多すぎる。特に好きでもない高校生なんかと暮らすなんて異常だって」
図星だった。
というより、そこまで分かってるなら素直に引き下がってほしいんだけど。
「でも俺は、俊紀さんが好きになっちゃったんだ。俺は思い立ったら即行動する人間だから止まれない!」
「それでよく失敗しないか?」
「するよ。でも俺が決めたことだし、後悔はしない。絶対に」
大したポリシーだなぁ……。
それはともかく、同居を許すかどうかは心の問題だ。素性が分からないのも勿論だが、本音としてはプライベートな空間にズカズカ入ってきてほしくない。
「でも……最終的な判断は、俊紀さんに任せるよ」
夕都も椅子に座り、穏やかな口調で告げた。
「俺をここに住まわせてくれるならそれでいいし、駄目なら俊紀さんが俺の家に住めばいいだけだ」
「どっちにしても同居は免れないのかよ!」
それはあまりに一辺倒で、自己中な物の考え方だ。
まずこんな提案を持ち出してくる時点で頭おかし……いや、そこは広い心で、彼の人間性という事にしておこう。
「やっぱり……駄目?」
夕都は以前のように、上目遣いで頼んできた。
それは普通に困っている少年の態度だった。
「……」
俺は彼のこういう表情に弱いんだって、ここでようやく気付いた。