それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
こういう時こそ、やはり自分は同性愛者なんだと痛感する。情実を交えてしまう時点で甘い。その欠点に気付いてるから、深呼吸して彼の顔を見返した。
すると、やはりまだ子どもだということがよく分かる。背が低いわけではないが童顔で、大きな眼。
百歩譲って、視点は恋人ではなく弟だろう。
「……そんなに言うなら、何か恋人らしい事してみな」
期待してるわけじゃない。ただ、思いつきだけでそんな無責任なことを言った。
「キス以外。あと、健全なもので」
「健……?」
夕都は意味が分からず、考え込んでいたけど。
「あっ。もしかして、デート?」
ほう。案外無難なものを持ってきた。
ちょっと安心したけど、やはりそんな平凡な思考の持ち主ではなかった。
「そんでラブホに直行か。でも流石に男同士はちょっと気まずくない? 受付は良くてもさー、結局監視カメラには映るわけだし」
「お前は健全な交際ってのが本当に思いつかないんだな……」
呆れて返すと、夕都はすぐさま反論した。
「思いつくよ! 俊紀さんは大人だから、考慮して言っただけ」
「じゃ、例えば彼女とはどんなことして遊んでたんだ」
「そうだね、監禁プレイとか」
目の前の少年が恐ろしくて、本気で通報したくなった。
「あのな、俺は下ネタを聞いてるわけじゃないから」
「じゃ俺の初デートの話聞く? 小四だから、もう六年前の話だけど!」
夕都は俊紀を座らせ、自慢げに語りだした。
「あれは確か夏休み前。学校が早く終わって、友達と教室で遊んでたんだ。そしたら一度も話したことない、クラスで一番可愛い女子が、俺に二人で帰ろうって言ってきたんだよ。俺はクラスでイケメン枠だったからどうせ告白目的だろって予想はついた。でも周りの連中が野次を飛ばしてくるから、俺はその子の誘いにどう答えればいいか分からな」
「長い」
途中からもう聴く気は失せていて、ペットボトルの水を飲み干した。
「なんだよ! 俊紀さんが聞かせろっつったんだろ」
「デートの内容を聞いたんだよ、何ちゃっかり付き合う前の馴れ初めから話始めてんだ!」
夕都はそう言われてハッとしたが、非を認めようとはしない。
「でも、詳しく話した方が重みが伝わるっしょ?」
「わるいな。出来の悪い読書感想文を聞かされてる気分だったよ」