それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
「じゃ簡潔に言うよ。俺のデートは学校の帰り道だった。手を繋いで、別れ際にキスした」
「展開早すぎだろ!」
ツッコむと夕都は爽やかに微笑んだ。
「断る理由がないし、早く進展したいからね。それより俊紀さんの初恋は誰? 自分? えー、引く」
「お前マジで叩き出すぞ」
「さぁーて……学校に行こう! 行った分だけ俊紀さんの家に泊まれると信じて! それだけを励みに、生きる糧にして!!」
「地味にプレッシャーかけるな!」
それすら完全スルーし、夕都は鞄を持って家を出て行った。
………。
一人になると嫌でも冷静になる。
もっと上手く突き放せば断れただろうに、結局うやむやに撒かれてしまった。
はあぁ。……仕事行かなきゃ。
気付けば時間は相当経っていた。
必ずと言っていいほど、彼と話してると時間を忘れる。
それが良いのか悪いのか、自分でもよくわからなかった。
夜の二十時を回った頃、俊紀は仕事終わりに買い物を済ませて自宅に向かっていた。
今日は特にスケジュールが厳しかった。人ひとり背負ってるような怠さだ。
夕都が家に居座ることについては、今の疲れた状態でギャーギャー言う気は起きない。
そもそも何故あそこまで自分に執着するのか。考えてみると、なにか別の意図があるように思える。
自分の家に帰れない事情もあるけど、彼の楽天的な態度が全ての深刻さを粉々にする。
「……ただいま」
俊紀が静かに言うと、夕都は玄関までやってきた。
「お帰り俊紀さん。落ちてる物とか拾って食べなかった?」
「その台詞そのまま返すよ、馬鹿なことばっか言うのはヤバイもん食ってるからだろ……って……」
俊紀は彼の姿に眼を疑った。
「お前、どうしたんだ? その頭!」
夕都は制服のまま、平然としている。
ただ一つ違うのは、彼の髪が金から黒になっている事だった。
「あぁ……脱色しきれなくて色ちょっと変なんだけどね。黒に戻した」
夕都は少し照れながら髪を触った。
「何で急に」
「後で話すよ。それよりご飯とお風呂どっちがいい? 風呂に入りながらご飯食べる?」
「お前やっぱ一回病院行った方がいいんじゃ……腹減ってるから先に飯頼むわ」
鞄を渡すと夕都は了解、と言って去っていった。
……何とも妙な夜になりそうな予感が、この時既にしていた。