それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
夕食をとり終えた後、夕都にすすめられて風呂に入り洗身した。
だがどれだけシャワーで汗を流しても、倦怠感は流れてくれない。生ぬるい感覚だけが残る。
鬱だ。今日だけで随分とこれからの生活が変わってしまったように思えた。
でも、こんなこといつまでも続くわけない。子どもなんてすぐに気が移ろうから頭を悩ませるだけ無駄だ。……多分。
アンニュイな気分でスポンジにボディソープを足した時、乱暴にドアが開かれた。
「うわっ何!?」
「俊紀さん! 湯加減どう!?」
ノックもせずに、夕都はワイシャツとズボンの姿で風呂にズカズカと入ってきた。しかも何故か袖と裾を捲し上げている。その恰好から猛烈に嫌な予感がした。
「心臓に悪いからそういうドアの開け方はやめろ。大体まだ湯船に浸かってないし」
「知ってる。だから来たんだ」
「は……?」
ここまで一貫性がない会話も珍しい。
誇張ではなく彼の日本語は俺に通じないし、俺の日本語も多分彼に通じてない。
訝しく警戒していると、夕都は見透かした様に悪どい笑みを浮かべた。
「ふふ。不安そうだね、俊紀さん。大丈夫、本当に背中を流しに来ただけだよ。湯加減なんかどうでもいいんだ、俺が入るわけじゃないし」
「…………」
最初の台詞は……まぁまぁ、善意を感じた。なのに最後の台詞は悪意すら感じる。こいつホントは俺のことをどう思ってるんだ。
「じゃあスポンジ貸して。洗ってやるから」
強引にスポンジを取られそうになって、ほぼ反射的に拒絶した。
「いいいい、結構! 背中ぐらい自分で洗えるから!」
「遠慮すんなよ、別に背中洗われてデメリットなんかないだろ?」
「損得の基準で考えてるわけじゃないって!」
「いいから貸せ………うわっ!」
揉み合っているうちに、夕都は足下に広がっている泡を踏み、バランスを崩した。
「危ないっ!」
咄嗟に動いたことで、間一髪夕都を抱き寄せることができた。
────これで二度目だ。
また考えるより先に身体を張って、夕都を守っていた。