それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
「そりゃまた急な話だな……」
俊紀は夕都から視線を外す。情けないものの、このままだと息が詰まりそうだったからかもしれない。
「その、せめて理由を話してくれないか? 簡単でいいからさ」
そう訊くと彼は黙った。しかしただ黙っているのではなく、何か考えている様に見える。
俊紀が心配するより先に、夕都は口を開いた。
「多分気付いてると思うけど、今ちょっと厄介な事に巻き込まれててさ。家に帰れないのは単純に……俺を待ち伏せしてる奴らがいるかもしれないから。まぁ、逃げるため」
夕都は可愛らしい、無垢な笑顔を浮かべる。が、内容が内容なだけに俊紀は引きつった笑顔しか返せなかった。
「そんな物騒な話なら警察とかに頼めない?」
「ガキ同士の喧嘩に首つっこんだりしないよ。それに……」
と、なにか言いかけて彼はやめてしまった。
「それに?」
「いや、今話した通り。一週間だけ、俊紀さん。だめかな……」
彼はすがりつく様な眼で俊紀を見た。
「……っ」
数秒の後、俊紀は静かに溜め息をついた。
「怪我してる事もあるし……とりあえず、な」
「ありがとうー! やっぱり俊紀さん良い人!」
そう言って喜ぶ彼は素直に可愛かった。普段の切れ長な眼が特徴的だからか、子どものような笑顔を浮かべると別人に見える。
こうして話す分には何も問題がない高校生に見えるのに……どこかに隠し持ってるナイフの存在が、完璧に信用させない。
「ほら、じゃあ今日はもう寝な。傷が開いたらまた大事になるぞ」
「でもここ、俊紀さんのベッドじゃないの?」
「敷き布団があるし俺は大丈夫だよ。……大人しく寝るんだぞ」
「了解!」
返事を聞き、電気を消して部屋を出ようとする俊紀を夕都は呼び止めた。
「俊紀さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
静かな廊下に出て、パンクしそうな頭で考えた。
……。
本当にこれで良かったのか、今さら疑問がわいてきた。
素性の分からない、それも確実になにか問題を抱えている(ナイフも持ってる)少年を家に入れてるなんて。
何が起こっても言い訳できない。100%自分のせいだ。
それでも……彼を疑いたくない自分もいる。
むしろ傷ついた彼を救ってやりたいとすら思ってることに気づいて混乱していた。