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君のため。

第42章 恋人として最後に抱きあった日 4。

私がぽつりぽつりと彼にした話。

それは私が過去妊娠していた時の話。

それまで順調だったお腹の子の成長が途中で止まり出す。

エコーの結果、もしかしたら病気を抱えて生まれてくる可能性も出てきた。

そんな時、私の相手からの言葉

『病気の子供なんて嫌だ』




…絶望。

どんな理由であれ、そんなことは言うべきではなかった。
私の中で一生忘れることができない、何かが崩れた瞬間。

その後の詳しい検査。
私は誰にも頼ることなく一人で病院に行った。

こんな時、私は実の親にすら頼ることができない、甘えることができない人間だった。
自分のことは自分で、そう教えられてきた。
色んなことを自分一人で抱え込んで生きてきた。

でもあの日一人で私はどれだけ心細かったか。
待合室で押しつぶされそうになりながら必死で別のことを考えようとしていた。
検査までの時間が辛くて苦しくて。

一緒にいてほしい唯一の人は来ない。頼むことができなかった。
きっと仕事が忙しいと断られる。

また自分一人で抱えこむ。
こんな時にも相手の顔色を見て、甘え、頼ることができない自分の愚かさ。


ぽつりぽつりと話しながら、
私は泣きじゃくる。
子供みたいに。

それに静かに耳を傾ける彼。

「なんでそんなひどいこと言うんだろう?」

「病気の子供さんだとしても、
そうして生まれてくることにはちゃんと意味があるんだよ」

ひたすら泣きじゃくる私。


…私、本当は全然強くないんだよ。


そしてあなたは落ち着いた声で言った。

「大丈夫よ。もう大丈夫…」

彼は優しく、そして強く私の肩を抱き、頭を撫でてくれた。


ありがとう。

そうなの。

私はずっとずっと誰かに

「大丈夫」

って言ってもらいたかったんだよ。

もう大丈夫なんだ。

やっと出会えたんだ。

やっと守ってもらえるんだ。

私、甘えてもいいんだ。

ありがとう。

本当に本当にありがとう。

ソファーで二人、ホテルの白いバスローブを着て寄り添いながら、本当に時が止まってほしいって思った瞬間。



…なのに、現実は残酷で。
もう、すぐに、終わってしまうんだね。

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