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 巡 愛 

第2章 言霊の……


 なにひとつ夫らしいことをしないままこんな生活を続けたせいか、取締役として遠隔地での新規事業の立ち上げを命ぜられた時も、妻に相談すらすることなく単身赴任をすると決めた。

 “中学を控えた息子のため”とは、ていの良すぎるたて前で、本当のところは会話もない夫婦関係に余計な神経を使いたくなかっただけのような気さえする。

 そんな仕事ばかりの毎日、誰にも吐き出すことのない胸の内をブログに綴ることで、私は精神的なバランスを保っていたのだと思う。

 私はとにかく、誰にも、妻にすら自分の弱みを見せたくなかった。

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