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 巡 愛 

第3章 もう一度……


 ところが翌日、私達夫婦の「いつも通り」が音を立てるかのように崩れてしまった。

 ベッドに入るまではいつもと変わらなかったのに、私が妻の肩にそっと手を触れると彼女は静かにこう言って私に背をむけたのだ。

「ごめんなさい。今日は嫌なの」

 その背中に、私は何ひとつとして言葉をかけられなかった。

 結婚して以来、私のすることに異を唱えることのなかった妻から、あからさまに抱擁を拒絶されたのは初めてで、自分でも驚くほどに動揺していたのだと思う。

 妻は体調不良でなければ数ヶ月という気まぐれな間隔にも関わらず、いつも私の求めに応じてくれていた。

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