巡 愛
第3章 もう一度……
送信ボタンを押す前に、再び寝室の扉を開けると、妻はどうやら泣き疲れて眠ってしまったらしく、ベッドに近づくにつれ規則正しく小さな寝息が聞こえてきた。
――送信。
程なくして、妻の携帯が羽毛布団の上で震えだし、サブディスプレイにはブログサイトのアドレスが表示されていた。
「環奈……」
「カンナさん」が妻の「環奈」であったという事実に、こそばゆさと胸苦しさが交錯した私は、ただ、寝ている妻の頬を優しく撫でることしかできなかった。
私はあんなにも妻に愛されていたのか。
それに対し16年もの間知らぬふりをしていた自分が腹立たしくてやりきれなかった。
「ごめんな」
妻の寝息とそう変わらないほどの音量で、私のつぶやきはほの暗い寝室に溶けていった。