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ふしだらと言わないで

第6章 慰み者の娘 3

 マンションを外から見上げる
 見納めて前へ歩き出す

 お腹の中から泣き声が聞こえたような気がした



「…ごめんね
こんなに早くから
お父さんいなくなっちゃってねぇ
私もそうだったけど
キミも片親だ
でも大丈夫だよ
私が必ず、幸せにするから
ママが私にしてくれたみたいに」



 連絡用の携帯
 かければおじ様に繋がる



 "仕事"はしくじり
 役立たずの上に妊娠まで
 合わせる顔が、どこにもない

 おまけに生みたいと言ったら何を言われるかわからない

 私が恩人にできる最後の恩返しは自ら用済みになり迷惑をかけないよう姿をくらますことだ



 私は手から滑り落ちるように

 通りがかったコンビニのごみ箱にその端末を放り込んだ



「本当にがんばるから
ママのママは一人でがんばりすぎて壊れちゃったけど
私は壊れないから

キミを一人前にしたいな
そうだ名前決めよっか
…七海!
パパの名前もらおうね

やっぱりさ
それが私にできる
最大のプレゼントだと思うんだよね
ふふ、気に入った…?
あなたの生まれてくる世界は
片親の恵まれない世界だよ
でもさ、強く生きよ?
いいことだってあるんだよ
大丈夫ママがいるから…」



 おじ様と出会わなければ
 今の私はどこにもなかった

 死んでいた私を
 生き返らせてくれた
 心を吹き込んでくれた

 いわば生まれてくるこの子は
 彼とおじ様の子供…



「キミを授かって
ようやくわかったの」



 何度も生まれてきた意味を考えた

 問うた、疑問に思った
 毎日がそんな日々だった

 でも今は違う
 私はこのために生まれてきた運命なのだと実感する

 穏やかな顔で笑う



 幸せな女が浮かべる笑顔に
 大勢の人が振り向いた

 おびただしい雑踏

 少女は人込みの中へ消えていった

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