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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第14章 第三話 【観玉寺の廃妃】  祭りの夜

 月光が窓にぶつかって細かく砕け散る音まで聞こえてきそうだ。そんな静かな夜が二人を包み込んでいる。
 ユンの面もまた、ひっそりと静まり返っているが、その透徹な瞳の奥底で燃え盛るのは紛れもなく嫉妬という名の感情であった。
 しかし、当の明姫にはまだ彼が何故、そこまで怒っているのか判らない。かつてないことに、ユンの双眸には憎しみすら垣間見え、それが明姫をひどく怯えさせていた。
「殿下、お許し下さい」
 明姫は怯え切った瞳でユンを見上げた。
「それならば、先ほどの者の名前を申せ」
「―」
 明姫はハッとした。ユンが憤っているのは、慈鎮の名前を言わないからなのだ。

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