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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第1章 第一話 【桜草】 桜草の出逢い 

 いや、むしろ、父があんな亡くなり方をしたからこそ、伯母の配慮で身を守るために宮中に入った。何事もなく平穏に過ぎていれば、今頃はもう、どこかの釣り合いの取れる両班家に嫁いでいたかもしれず、一生、宮殿など縁のないところだったろう。
 そうして、平凡な男の妻となり、子の何人かでも生み、やはり平凡な一生を送ったに違いない。明姫はそれが嫌だとも思わないし、ささやかな幸せを手に入れられなかったからといって残念だと思ったこともない。
 九年前のあの夜を境に、明姫は、あらゆるものに対しての執着を失った。例えば、何が欲しいとか、ああしたい、こうしたいとかいう望みを抱くことがなくなってしまったのだ。何かを望み執着すれば、それを大切に思う心が芽生える。だが、その大切なものを失った時、人はどうすれば良いのだろう。

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