身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】
第4章 第一話【桜草】 蜜月と裏切り
今、崔尚宮の瞼に映っているのは、かつて彼女が出逢い別れてきた人々の懐かしい面影なのかもしれない。その中には、もしかしたら、桜草の咲く殿舎の妃―薄幸な佳人の顔も含まれているだろうか。
伯母の瞳がすうっと細められ、俄に光を取り戻した。いつもの厳しい〝鬼尚宮〟と若い女官たちから怖れられる顔に戻っている。
「私は常々、このように考えておる。後宮ほど怖しき場所はない。たとえていうなら、水上の楽園だ。池の水面には蓮(はちす)が浮かび、この世の極楽のような美しさを見せているが、水面下にはどろどろとした醜い女の怨念や嫉妬が渦巻いている。時にその負の感情は謀略という形で水面上に出てくる。水面下では皆が互いに牽制しあい、他人の脚を隙あらば引っ張ろうと様子を窺っている。それが後宮という女たちだけの閉ざされた場所なのだ」
伯母の瞳がすうっと細められ、俄に光を取り戻した。いつもの厳しい〝鬼尚宮〟と若い女官たちから怖れられる顔に戻っている。
「私は常々、このように考えておる。後宮ほど怖しき場所はない。たとえていうなら、水上の楽園だ。池の水面には蓮(はちす)が浮かび、この世の極楽のような美しさを見せているが、水面下にはどろどろとした醜い女の怨念や嫉妬が渦巻いている。時にその負の感情は謀略という形で水面上に出てくる。水面下では皆が互いに牽制しあい、他人の脚を隙あらば引っ張ろうと様子を窺っている。それが後宮という女たちだけの閉ざされた場所なのだ」