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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第5章 第一話【桜草】 別離という選択

 いや、自分がユンを忘れることはあり得ないだろう。彼と過ごした一瞬一瞬が今も明姫の宝物だ。こんなちっぽけな自分を好きだと言ってくれた彼の言葉が、大切な宝物を愛しむように優しく撫でてくれた手の温もりが、これから生きてゆく勇気を与え、背中をそっと押してくれるに違いない。
 宮殿の正門を出た明姫は、物陰に座ると、両手を組んで掲げ拝礼を行った。そのはるか彼方、大殿には国王の住まいがある。それは国王であるユンに対してではなく、十五歳の自分が全身全霊で愛した男への別れの挨拶のつもりだった。

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