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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第10章 第二話 【桔梗の涙】 切ない口づけ(キス) 

「殿下」
 明姫の眼に水晶のような雫が宿っていた。黒曜石の瞳が潤み、まばたきした拍子につうっと雫が白い頬をころがり落ちていった。
 明姫はやつれていても、なおも美しかった。いや、やつれ果てているからこそ、これまでのどこか幼さを残した容貌に臈長けた大人の女の凄艶さが加わった。
 恐らく本人はその変化に気づいていないだろうが、もし明姫をこの腕に取り戻したなら、彼はますますこの女に魂を絡め取られ溺れずにはいられないだろう。
「明姫」
 明姫は呼ばれるままに格子戸に顔を近づけた。二人は引き寄せられるように接近し、格子越しに見つめ合う。

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