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クリスマスに奇跡を

第1章 クリスマスに奇跡を

ギプスが取れ、しばらくすると俺はリハビリが始まった。
始めはそんな気にはなれないと拒絶していた。
だが、隣で看護師が悟の体を拭いているのを見ていると、動ければ悟の世話が出来ると思い、行く事にした。


リハビリは順調に進み、腰の痛みも以前に比べれば殆どない。
杖を使わずに歩けるようにもなった。
それでも悟は変わらない。
今でもチューブに繋がれ、生かされている感じだ。


悟はどう思っているのだろうか。
このまま器械で生かされたままで幸せなのだろうか。
ふと、そんな疑問が頭を過ぎった。


部屋に入り悟の口に繋がっている器械に手をかけた。
これを外せば悟は死ぬだろうか?
そうなれば、悟のいない世界に未練はない。
俺は迷わず、後を追えばいい。
そう頭の片隅でささやく俺がいる。


戸惑いからか震える指先が器械を外そうと動く。
すると、パシッと勢いよく手首を掴まれた。
「・・・っ・・・」


見上げればそこには漆黒の髪をふり乱した眼鏡をかけた青年が立っていた。
互いの視線はぶつかり合うが言葉を交わせない。
男は俺の手首を握りしめたままでいた。


「・・・祖母から聞いた。」
この人は何を言っているのだろうか?


「君がずっと面会を断っていると」
あぁ、加害者遺族か。


もううんざりだ。
あの時の事など忘れたい。
俺は悟と二人の世界に旅立つんだ。
「放せよ!!」
俺は腕を振りほどこうともがくが男は更に腕に力を込めた。


「君からすれば私も加害者の親族になる。だが、言わせてくれ。」


「君たちには謝っても謝りきれないことをした。言い訳するつもりではないが、祖母は自分の息子が悪いのだからといいながら毎日涙を流していた。」
俺をまっすぐに見つめる瞳がきらりと揺らめいた。










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