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赤い花~情欲の檻の中で~

第2章 MemoriesI

 美華子はぼんやりと、流れ落ちる水滴を眺めていた。そこにマスターのやわからな声音が静寂を破る。
「お待たせしました」
 淹れたてのコーヒーの何ともいえない匂いが鼻腔をくすぐる。美華子は元々、コーヒーは苦手で、紅茶党だったが、祥吾と付き合うようになってからというもの、コーヒー党になった。
 とはいえ、苦みのあるのはいまだに苦手で、毎度ながら、ミルクと砂糖はたっぷり足して呑む。そんな美華子を祥吾は
―折角のコーヒーの味が死ぬ。邪道だ。
 と、いつも良い顔をしない。もちろん、彼はミルクも砂糖もなしで、すべてそのまま呑むのだ。

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