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赤い花~情欲の檻の中で~

第2章 MemoriesI

 祥吾はしばらく手をさまよわせていたが、やがて、ここに灰皿はないのだと思い至ったらしい。軽く舌打ちして、ズボンのポケットから取り出そうとしていた煙草を再びしまいこんだ。
 外はどうやら雨が降り出したのか、空はいっそうグレーに塗り込められ、舗道を行き交う人は傘を差して足早に歩いている。二人が座る窓際に填ったガラスに、小さな無数の水滴が付いていた。水滴は次々とガラスに付着しては、下へとしたたり落ちている。

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