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それでも、私は生きてきた

第73章 残された記憶

ユリさん、ユリさん。


なんでか、
母親に呼ばれているような錯覚が起きた。

ユリさん

と「さん」付けで呼ばれているのに、
母親に

早く起きなさい!朝だよ!


と、起こされている気分に陥っていた。


目を開けると、
母親くらいの年配の看護婦さんだった。


思わず片手を伸ばし、看護婦さんの手を握った。


大丈夫?クラクラする?


うん…気持ち悪い…


少しづつ麻酔が切れるからね。怖かったでしょ…。覚えてる?


う…

と、顔を歪ませ一気に涙がこみ上げた。言葉に出来ず、子供のように顔を歪ませながら涙で視界をボヤかせながら頷いた。



血圧計らせてね…。手術中に、血圧が一気に下がっちゃってね…心配した…。




覚えてる…赤ちゃんが…体から…


うっうっ…と、嗚咽を出しながら、また顔を歪ませた時


看護婦さんも顔を歪ませて、
手をぎゅーと握り締めてくれた。



咄嗟に起き上がってしまって、膝を立てて
膝に引っかかった布団に顔を埋めた。


ユリさん…


と、背中をさすられ顔を上げると


看護婦さんは抱き締めてくれた。


ユリさん、今度は出産しに、うちに来て下さいね…。あなたは一時的にも母親になったんですよ。強く生きてちょうだい…。



その言葉は、

今でも私の胸の中に強く残っている。




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