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それでも、私は生きてきた

第77章 彼のスタート

赤ちゃんに会いに行った後、
また
すれ違いの日々に戻った。

数ヶ月後。
彼の誕生日の日。

覚えたばかりのチーズケーキを焼いていた。

何が欲しいのかわからない。
何が食べたいかわからない。
今、彼は何を頑張っているのかも
わからなかった。


元々甘党の私。
甘い物はあまり好まない彼。

甘党なのに生クリームたっぷりのケーキが苦手な私が
一番好きなのはチーズケーキだった。

甘党の人が生クリーム苦手なんて珍しいね。

チーズケーキは、
甘い物が苦手な人が好むよね?

甘党なのにチーズケーキ?
と、よく驚かれる。

彼と私は、
普段の食の好みも
真逆だった。

コッテリとした肉類が好きな彼。

肉類よりも薄味で魚介を好む私。

唯一、
食の好みが一致するのは
チーズケーキだけだった。




今日ウチ寄れる?

もうすぐ行くよー

わかった。


1時間。2時間…3時間…



彼の

「行くよ」

は、何時間後の事なのか
もう
わからなかった。


昼前に連絡を取り、
彼が来たのは
暗くなり始めた頃だった。


玄関を開け、

来たよー

と呼ぶ彼。


部屋に上がらないこともわかってた。

持たせられるように
使い捨ての紙カップに焼いたチーズケーキ。


はい。誕生日おめでとう。いってらっしゃい。


誕生日なのに、
笑顔の一つもなく

チーズケーキの入った袋を玄関で渡す。


ありがとう〜!行ってくるね!



コレが私達の「普通」になっていた。


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