テキストサイズ

ボカロで小説

第1章 からくりピエロ


 本当は何度もあのお面を捨てようとした。僕は彼女にとって優しいだけのピエロじゃない。彼女が何をしたって怒らない、おどけた道化師でいたいわけじゃないんだ。

 だけどずっとそのお面は捨てられないまま、引き出しの奥に隠してある。お面を捨ててピエロをやめて本音を彼女に口にして、今の関係が変わっていってしまうのが怖い。

 ――でももう、いい。もうやめた。ここで君を待ち続けるのは。

 僕は砂利を蹴って、立ち上がった。いつの間にか日も傾きかけていた。

 夕刻が迫り、ふつふつと湧いてくるのは彼女に対しての憤り。

 買い物に付き合って、呼ばれれば飛んでいって、君が好きな子に振られた日は朝まで電話で慰めて。

 どうして僕が君にそこまでするのか、君は知らないでしょう? 知ろうとしたことだってないだろう?

 どれだけ尽くしても、君は当然のようにそれを享受する。

 これ以上待ち続けたって、僕が壊れてしまうだけだ。

 もう知らないと時計台に背を向け歩き出そうとした時だった。


「ユウト……!」


 ふいに飛び込んできた悲鳴のような声に、僕は弾かれたように振り向いた。


「ごめん……っ、ごめんね!」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ