ボカロで小説
第1章 からくりピエロ
彼女は僕にかけよるなり僕の手を掴み、大きく肩を喘がせながら必死にそう謝った。
「ずっと待っててくれたの?」
呼吸を整えながら尋ねられ、僕がこくんと頷くと、たちまち彼女の目から大粒の涙が滲む。頬が真っ赤に上気してるのは、きっとチークのせいだけじゃない。
「ごめんね、ずっと来週だと思ってたの……」
「そっちが誘ったくせに」
「ごめんなさい」
「携帯は?」
「金曜日に学校に忘れてきちゃって……」
道理で出ないわけだ。
呆れた。なんというタイミングの悪さだ。
今までぐるぐるまわっていた思考は、彼女を見た瞬間に全部吹き飛んでしまった。待っていてよかったとさえ思えてしまう自分の思考回路に呆れる。
まだめそめそと泣き続ける彼女の頭に僕はぽんと手を置いた。
あーあ。走ってきたせいか、髪もボサボサ。
「もういいよ。買い物行こう」
「ユウト怒ってないの?」
「怒ってほしいの?」
逆に問い返してやると、一瞬ぽかんとしてから彼女は笑った。いつもの、屈託のない笑みで。
「優しいね」
――ピエロみたい。口に出さずとも、聞こえてくるその単語が僕は大嫌い。
でも彼女のためのピエロなら、甘んじて受け入れてもいいかなと思う。
上機嫌な彼女の手を掴み、雑踏の中を歩き出す。
――そう、僕はきっとこれからも君が望むピエロだ。好きなふうに操って、翻弄してくれたらいいよ。
おわり