テキストサイズ

寝取られ漂流記

第22章 20歳冬

「俺の高校卒業の時、茜と別れてさ。俺はこっちに来たじゃない?」
「うん」
「最初は出来るだけ早く茜の事、忘れようと思ったんだ。大学で最初にいいなって思った子に声を掛けてすぐに付き合った。でもダメだった。つい隣にいるのが茜だと思っちゃうんだ。それでふいに茜の名前を言って振られた」
「あらら」
「その後も彼女はすぐに出来たけど、長続きしなかった。俺、自分で思ってる以上に不器用みたいでさ。茜にしてたみたいな事して引かれたり、逆に何もしないようにして自分が我慢できなくなったり。もう何をしても上手くいかなかった。それで分かったんだ。俺はやっぱり茜じゃなきゃダメだって」


そんな風に言われたら嬉しくて泣きそうになる。
でも晃佑は戻っては来なかった。


「でもさ、二人で話し合って別れようって話をしたのに、今更ってのも思ったんだ。だから俺の中で一つ決め事を作ったんだ」
「決め事?」
「卒業したら茜を迎えに行こう。それまでに茜にもう一度俺と付き合いたいって思ってもらえるように準備しようと決めた。でも、もしその時、茜が幸せだったらすっぱり諦めようって」


真っ赤な晃佑の顔がより一層赤くなる。
それでもあたしは晃佑を見つめていた。


「そうやって準備してたのに、こないだ茜から電話があって。声を聞いたら耐えられなくなった」
「もういいよ」


これ以上何も言わなくてもいい。


あたしは晃佑の声を遮るように唇を塞いだ。


晃佑もあたしと一緒だったんだ。
それが分かっただけで十分。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ