“好きなところ”
第2章 Dye D?
しばらく走った先に、ただ呆然とたたずんでいる亮の姿を見つけて駆け寄れば、目線の先には、三人でいく予定だったフランス料理の店の前で横ちょと信ちゃんが楽しそうに話している姿が見えた。
二人の姿はいつもより少し正装で、きっちりとしていた。
僕は慌てて亮の片腕を抱き抱えて死角へと逃げた。
横ちょの視線を一瞬感じながら隠れた電信柱に重たい息を吐いた。
死角に入ったことで二人の様子は見えにくくなった。
「なんで隠れやなあかんねん…。」
「それは…いや、その…。」
まさか亮が横ちょのことが好きだからとは言えない。
僕が亮のことが好きなことも言わなければならないから。
怖かった。ただ、離れていくことが。
「村上くん…俺らのことは断ったくせに、横山くんとは食事行くんや…。」
「…な、なんでここやってわかったん?」
「…声でわかった。」
力なく電信柱にもたれて下を向いたまま呟いた。
「焼きいもの声がラーメン屋の後ろで聞こえてすぐに、電話の向こうからも聞こえてん。だから近くにいることはわかった。あとは勘。あの店は前から行きたいって村上くんがゆうてた店やから。」
大きな手を頭に抱えてかなり悩んでいるようだった。
とりあえず様子を見ようと顔を出せば思わぬ光景に固まった。
僕の異変に気づいた亮が電信柱から飛び出した。
亮の目にははっきりと唇を重ねる二人の姿が写った。
人通りの限りなく少ない穴場のため、この事を知っているのは僕と亮の二人しかいない。
二人が笑顔で離れたときに、亮はゆっくりと歩いて僕のもとへ帰ってきた。
その場に座り込んだ亮はただ、呆然と遠くを見ていた。
怖かった。亮が離れていくのが。だけど今以外にはなかった。
僕はそっと隣にしゃがんで肩を抱き寄せた。
僕では横ちょの代わりなんてできやしないとあのときの姿を見てわかればよかったのだが、僕は強く抱き寄せて小さく囁いた。
「…僕の家、泊まっていかへん?」
力なく僕を見ればゆっくりと立ち上がり、よろよろと歩きだした。
風が吹けば倒れそうな亮の肩を支えながら、二人で僕の家へと帰っていった。
その夜は亮が汚れた日。その夜は、きれいな満月だった。