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“好きなところ”

第2章 Dye D?

「…亮がそう思うんやったら…別れよう。…僕も…亮が一番やって…言えへんし…。」

あの日、亮の口から聞いた言葉に、僕は涙を飲んだ。

お互いに恋人でありながら心の場所が違うことを改めて知らされた。心のどこかで理解していた。亮の気持ちも、僕自身の気持ちも。

お互いに向かうべき場所へと歩きだす。

亮がその晩、彼にどんな言葉で、どんな行動で気持ちを伝えたのか、僕は知らない。もしかしたら彼も本当は亮のことが好きで、だけど僕がいるから近づかなかったのかもしれない。

だとしたら彼には悪いことをしたと思っている。

だって、僕の心は亮にはなかったのだから。



「…信ちゃん。」

充血した目を見て慌てて扉を開けてくれた。出迎えた信ちゃんの驚いた顔を見て止まっていた涙が再び溢れてきた。

「どないしてん…?と、とりあえずあがり。」

優しく引かれた手に重たい足を動かした。

誘われるまま家の奥へと歩かされた僕はこの家のにおい、信ちゃんのにおいを嗅ぐだけで懐かしさに心を落ち着かされてた。

「どうしたん?亮となんかあったん?」

ゆっくりとソファーに座らせるとその横に座り、僕をじっと見つめる。

その瞳に吸い寄せられるように、僕はそっと唇を重ねた。

「お互いに…幸せになろうな?きっと…。」

自分で言った言葉が頭を回る。

唇の温もりが冷えるときには、信ちゃんは隣にいなかった。

僕に背を向けて、うつむいて自分の唇をしきりに触っている。

戸惑うのも無理はない。

僕は知っている。信ちゃんと横ちょの関係を。

「…これは…どうゆうことや?」

ようやくのことでゆっくりと呟く。

信ちゃんの顔を見るのが怖くなった僕は、ただ下を向いて黙っていた。

黙りたくて黙っているわけではない。声が出ないだけだ。

衝動で気づけば唇に触れる暖かい温度。僕にさえ、予想していなかったのだから。

「…ヤス。人をおちょくりに来たんか?」

僕のすぐ後ろまで歩み寄ってきた声は、以外にも冷静に聞こえた。こんな状況でも、僕を見る目が心配をしてくれる信ちゃんは優しくて、悔しいぐらいに鈍感だ。

「…ちゃうよ。」

ようやく絞り出したかすれ声で時が動き出す。

「今日、亮と別れてきた。」

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