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第2章 クラゲ

あの日、家に帰っても涙は出てこなくて、ただたまるばかりの寂しさと虚しさでいつまでも眠れずにいた。

寝室の電気をつけてなにする出なく、ただ、じっと座っていると、インターフォンの音が強く鳴った。

日付も変わっているのに訪問なんて常識知らず、一体誰なんだと思いながら出てみると、僕が置いていった熊が映っていた。しばらくその熊が上下にピョコピョコするとサッと下に下がり、満面の笑顔の大倉に変わった。

あんなのを聞かされたあとだと言うのに、僕は嬉しさを隠しきれずに外へと飛び出した。

「これ、ヤスのやろ?」

「う、うん。え?なんでわかったん?」

「こんなんつけそうなん、ヤスしかおらんやん。それに、財布についてるんをよく見ていたし。…これ、雑貨屋に売ってる恋愛のお守りやんな?」

僕の手の上にそっと熊を置きながらの笑顔の問いかけに僕は答えられなかった。

もう、叶うことはないのだから、この熊も必要ではなかった。

「効果、ある?…横山くんといい感じやもんな、効果あるよな。じゃ、今度俺も買ってみよっかな。…もう、叶わんかもしれんけど…。」

「…なにゆうてんねん…。」

「でも俺にはちょっと可愛すぎるかな?」

「大倉!」

突然大声を出した僕に笑顔が固まった。

「…渋やん…大事にしたってや。」

「…え?」

僕の口からはこれ以上は言えなかった。

僕が大倉のことを好きなのがばれたら、本当にもう目を会わせることさえできなくなる。

手のひらの上でおとなしく座っている熊を赤く形がつくまで握りしめると僕はドアノブに手をかけた。

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