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花火の秘密

第2章 りんご飴の秘密

着なれない浴衣に身を包んだ八月最後の日。

地面から上がる蒸気よりも俺の心は熱かった。

今まであいつの鈍感さに振り回され続けたが、今日こそはこの気持ちをあいつに伝え
ると決心してこの場所に立っている。

その舞台はどっくんの地元での夏祭り。
ロマンチックに花火の下でそっと唇を重ねて…。

「…ヨコ一人か。」

いち早く着いていた俺の姿を見た紺色の浴衣が足を止めた。

「おん。…まだ誰も着てへん。」

何気ない会話。間にちょうちん一つが入るだけ開けた距離。普段とは違う場所と服
装。

いつもなら気に止めないことが今日はやけに気になって仕方がない。

ただ人通りの多い道の端で二人でなにも言わずに突っ立ってるだけなのに。

「…なに?」

突然静かな空間に言葉が飛んできた。

「何って?」

「俺になんかあるんか?」

ひなを見ながら考え込む俺の視線に眉間に薄くシワが寄り、その顔は見るからにうっとうしそうだった。

ヤスにはそんな顔見せへんのに。

「…勝負、せぇへん?」

「勝負?」

「射的でより大物をゲットした方が勝ち。負けたら射的代とリンゴ飴をおごる。」

とっさに話をそらした俺からなんの疑いもなく 顔をそらせば少しにやけたような顔
で悩んでいる。

鈍感なのがこのときだけは救いだ。

「ええやん!!そうゆう楽しみつくっとかなな。」

楽しそうに笑った顔は薄暗くなった町にそっと光るちょうちんの明かりに照らされて
いつもより優しく見えた。

「……相変わらずお前は可愛いなぁ。」

「なんやねん急に!!」

急に誉めると普段は堂々としているひながかなり照れた顔でそっぽ向く。俺が可愛い
と思っているのは笑顔と言うよりそんなギャップなのかもしれない。

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