テキストサイズ

白雪姫

第2章 魔女になった瞬間

「そんなん…俺に聞かれてもわからん。」

「…そっか。…僕、小さい頃から夢がありまして。メルヘンチックな恋がしたいって。大きなお城みたいなところに住んで、それから、きれいな服を着て、好きな人に…キスして起こしてほしいっていう夢が。」

「…乙女か?」

「…ですね。昔っからプリンセスとかが出てくるお話、むっちゃ好きやったから…。今でも幼稚園の時の絵本、家にあるんです。」

身をすくめてうつむく姿はお年頃の女の子そのものだった。

「あの日から、もし亮ちゃんが王子さまで、僕がプリンセスやったらって考えるようになって…。それを考えるのが一番幸せなんです。」

そわそわと楽しそうに話していたが、深呼吸をすると急に目線をガクンっと落とした。

「……でも、それじゃあかんと思うねん。」

「…なんで?」

「亮ちゃんに迷惑やないですか!勝手にそんな妄想されたら。」

芸能人は人に夢を与える仕事だとよく聞く。

亮はファンのみならず、まるにも夢を与えていたようだった。

「ええんちゃう?別に。亮のことやし、その前にアイドルやし。」

「いや。…僕のなかでけじめをつけないと、このままの気持ちを引きずってたらいつ…現実を知って心が崩れるかわからない。…その、けじめをつけるためのスイッチとして、好きであった最後の思い出に…一度だけ、キスがしたんです。……でも、思いつけへんねんやったらしゃあないよね。」

今のまるには華やかさなんてなかった。

ただ一人の「丸山隆平」という人物でしかなかった。

自分が一番好きなことを手放そうとしたとき、いつも底無しに元気なまるが、こんなにも悲しい、苦しい顔をするんだと思うと、席を立とうとするまるを止めずにはいられなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ