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理想と偽装の向こう側

第12章 板ばさみ

「また連絡するから!」



そう言って嘉之は車を走らせて行った。



「はぁ……。」



緊張した…。
こんなの状態を続けられる訳ない…早くケリ付けないと。



左手に光る、指輪を見る。



今までの嘉之と、何か違っていた…。
まだ微かかもしれないが、余裕があった…つまり『自信』が付いたんだ。



プロジェクトも成功し、コンテストに入賞し、海外で活動できる基盤も整ってきた。



車だって、この指輪だって買えるくらいのゆとりが出来てきている。 



薔薇をモチーフにして葉の部分がペリドットが埋め込まれている。
高価な石ではないが、薔薇と蔦のデザインのリングはプラチナだから、安くはなかった。



左手の薬指に躊躇なく、はめられた指輪…。



左手の薬指って、心臓に繋がってるって…誰か言っていたよね。



私には、枷に思えた。



着々と出来上がろうとしている鳥籠に、この枷で縛った私を閉じ込める…。



そんな気がしてならない…。



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