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シトイウカ

第2章 に。

「象は戻らない」

自転車に乗って
丘から下りてきた夕暮れに
手紙が一通届いたよ

郵便屋さんは
バイクに乗って
町の角を曲がっていった

浜風は夕顔を薙いで
抜けていくから
取り込み忘れた洗濯物が
はためいている

ペダルを踏んで
もう一度、坂道を上れたなら
あの雲に

灯台に火が点れば
汽笛を合図に
夕焼け空が真っ赤に染まる

この町でわたしは
あなたを待っているよ

象のペーパーナイフは
一体どこへ行ったかな

ああ、船に乗って
暖かい故郷に
戻ってしまったのかもしれない

いまや、象は
熱帯林の遺跡を
のっしのっしと
歩いているのかもしれない

だから、わたしは
あなたからの手紙の封を
切ることはできない

かなしい知らせなんていらない

わたしはこの町であなたを待つ

真っ赤な夕焼け

深呼吸すれば

頭のてっぺんまで

潮の香りがした


終わり









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