
~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~
第111章 美香のPartTimeLove⑧
「じゃあ車を取りに行くからここで待ってくれる?」イッキ君がそう言ったのでアタシは小さく頷いた。
それを見てイッキ君はダッシュで駆けて行った。
もう目眩は大丈夫なのかアタシはイッキ君がまた転がるのではないかと心配して後ろ姿を見ていた。
でも心配することはなかった。イッキ君は次の信号の手前で失速し、両手をそれぞれの両膝に置き背中を丸め地面を見つめていた。
どうやら息が切れたようだった。
カッコ悪い。アタシはそう一人でつぶやき笑ってしまった。
イッキ君を待つ間、アタシは自分がデリヘルで働く想像をしてみた。
お客さんってどんな人たちが来るんだろうか?
アタシは怖い思いをすることは無いんだろうか?
知らない男の人…お客さんに抱かれてお金を貰う。アタシはきっと色々なことをされ、そしてアタシは色々なことをしてあげないといけない。
でもわかっている。
アタシには無理だと。
ギルティの許可が出れば依舞の出番なんだ。
アタシたちの目標のために依舞には頑張ってもらいたい。
ギルティがいれば依舞が暴走することもないはずだ。
「ねぇギルティ!アタシたちやれるかな?」
アタシは目をつむり心の奥深くに問いかけた。
「それはギルティじゃなくて、こっちにきくもんじゃない?でも大丈夫だよ。ギルティもいいって言ってるよ」
そう答えたのは依舞だった。驚くくらいの色っぽい声の響きだった。
「良かった。アタシ本当にアルバイトをどうしたらいいのか困っていたんだ」
アタシは言った。もちろん声に出してではない。
イメージをするんだ。アタシたちだけしか入れない、アタシたちの大きな家。そこにはみんなの部屋がそれぞれある。そして、みんなが集まれるだだっ広いリビングがある。白い壁。天井は無い。いつも青く晴れて綿のような雲が浮かんでいる空があるだけだった。
アタシはそこのソファーに腰掛けて誰かに話かけるんだ。
アタシは姿の見えない依舞と話している。依舞もこのリビングのどこかにいるんだ。
